手づくり市での出店や新聞の取材で「どうして白黒フィルムで撮影しているんですか」と訊ねられることがあります。
「白黒よりカラーの方がいいやん」という意見もありますが、私は白黒フィルム撮影が好きです。
その理由は2つあります。
1つ目の理由は、撮影した時の服の色やその日話したことなど、記憶をたどりながら思い出に色付けができるからです。
人間の記憶は曖昧なところがあって、振り返ると、着ていた服が思いもしなかった色だったりすることもあります。
さらに記憶を思い出していくと、その日の会話までもが聞こえてくるかもしれません。
それが思い出に色付けをする行為だと思います。
もちろん、今の時代はデジタルカメラで写真を白黒加工にすることも可能です。
ボタンひとつ押せば、カラーから白黒にできるとても便利な時代。
フィルム写真と同じように写真を見返すことができるかもしれません。
しかし、“思い返す”という行為は、フィルム写真の方が自然とそうさせてくれるように思います。
フィルム写真の描写は柔らかく、ふわっと優しい質感。
おそらく思い出というのは、鮮明なものでなく、ふわっとした記憶のようなものだと思います。
フィルム写真のふわっとした描写・質感が、ふわっとした記憶に似ているからこそ思い返させてくれるのでしょう。
もう1つは、撮影、現像、プリント作業を全て自分の手でできるからです。
撮影後、フィルムを作成し、暗室の引き伸ばし機で印画紙に露光する。
液体に印画紙を浸した時に、ゆっくりと像が浮き上がってくる様子はとても神秘的です。
静かな暗室で、一枚の写真を調節しながら焼いていく作業。
時間と手間はかかりますが、一枚の写真に込める思いというのはデジタルのそれとは違うように感じます。
秋の夜長、白黒フィルムについて考えてみました。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
2019.9.3 田村寫眞館オーナー
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